12月14日に投開票が行われる衆院選では、人口減少に歯止めをかけ、地方の成長を促す
「地方創生」も焦点の一つとなる。だが半導体を中心に国内製造業では、地方での工場閉鎖が
相次いでおり雇用や地域経済の悪化に拍車をかけているのが実情だ。企業の事業再編が
安倍晋三政権の経済政策、アベノミクスの成否に影を落としている。
◆ルネサス撤退の余波
甲府市の中心部から車で20分ほどの釜無川沿いには、医療機器大手のテルモや、
クレーン大手のキトーなどの工場が建ち並ぶ。その一角にある半導体大手の
ルネサスエレクトロニクス甲府事業所(山梨県甲斐市)が10月末に閉鎖した。
山梨県が誘致した同事業所は、従業員約600人が在籍し、関連会社の社員や派遣社員を
含めると約1千人の雇用を生んだ。横内正明知事は「地元経済に与える影響が大きい」として、
ルネサスの鶴丸哲哉社長に再三、工場の維持を求めたが、経営再建を急ぐ同社は閉鎖を
躊躇(ちゅうちょ)しなかった。
最終的には従業員の約200人が配置転換となり、約400人が退職を選択した。
山梨県は退職者の受け皿となる再就職先の斡旋(あっせん)を急ぐが、難航しているという。
また、近隣の飲食店では売上高の落ち込みが懸念される。甲斐市では「法人税や住民税が大幅に減る
見込みだ」(市役所関係者)という。
ルネサスは、人員余剰で利益が出せず、財務基盤が悪化。地方の工場を相次いで閉鎖している。
生産・開発拠点の整理統合で、平成22年に4万6600人いた従業員は現在、2万4200人に
まで減少した。さらに、今後も国内の拠点を統廃合する方針だ。
他の半導体メーカーも、製造に特化する台湾勢や大規模投資を行う韓国のサムスン電子に押され、
国内拠点の統廃合が相次ぐ。パナソニックは今年度中に岡山工場を閉鎖するほか、
4月には国内の3工場をイスラエルのタワージャズに売却した。
富士通も7月に三重と会津若松工場を分社化し、米国と台湾企業の出資受け入れを発表した。
◆「行政は何もできぬ」
安倍政権によるアベノミクス効果で円高から円安に転じたが、海外に生産を移管した企業が、
国内生産に戻る動きはまだ乏しい。今年、ホンダはメキシコで、日産自動車はブラジルでともに
新工場を稼働した。自動車メーカーは生産コストの軽減や為替リスクの回避に加え、
現地のニーズをいち早く取り込むため、海外生産移管を加速している。
だが、経済産業省の幹部は「工場の撤退で地方の元気がなくなっているのは理解しているが、
行政としては何もできない」とつれない。グローバル競争の中にいる民間企業の経営には、
立ち入れないとのスタンスだ。
地方創生には、まず雇用の確保が不可欠だ。そのためには企業による国内生産の維持と、
雇用の確保が欠かせない。製造業の国内生産をいかに活性化するかが、新政権の“宿題”となる。
(11月22日 産経新聞より)