安倍首相は、2日に開いた経済界、労働界との政労使会議で、
中小企業の賃上げにも積極的に関与する異例の対応に踏み出した。
統一地方選のさなかに、中小企業が多い地方へのアピール効果を狙う
と共に、中小の賃上げを実現させることで、
首相の経済政策「アベノミクス」を巡る論戦を有利に進めたいという
思惑もありそうだ。
■日本企業の99%
甘利経済再生相は政労使会議後の記者会見で、
「中小企業が賃上げすることが何より大事だ。
政府として、そこまでやるのかという指摘があったが、
そこまでやらないと好循環を肌で感じる人が
過半数を超えてこない」と述べ、政府が大手企業を
通じて中小企業の賃上げ促進を要請することの意義を強調した。
2014年、15年と2年連続で政府が賃上げの旗を振る
「官製春闘」で、大企業については、従業員の基本給を
はじめとする一律に引き上げるベースアップ(ベア)が
高い水準で広がるなど一定の成果を収めた。
しかし、日本企業の99%を占め、
サラリーマンの7割が働く中小企業の賃上げの動きはまだ鈍い。
政労使会議は、秋から年末にかけて開催していたが、
初めて4月に開かれた。そのうえ、議論の対象を中小企業の
賃上げに絞ったのは、「統一地方選での野党対策の意味がある」
(政府高官)のは確実だ。
今国会では、民主党など野党が、
アベノミクスを巡る「格差」問題などを
材料に政権批判を強めていた。
野党は、「アベノミクスは富裕層や大企業を豊かにするだけ」と
指摘しており、中小企業に賃上げが広がれば、
こうした批判を一定程度抑え込むことにもつながる。
■大手企業との格差「まだまだ」
中小企業の春闘は、大手の交渉結果を踏まえて
今後、本格化する。夏にかけて妥結していくが、
労使交渉は大手と大きく異なる。
大企業はメーカーを中心に同業他社をにらみながら
交渉を進めるのが慣例だが、中小は個別企業の経営に
大きく左右される。円安による原材料価格の高騰が
響いている企業も多く、必ずしも景気回復の恩恵は受けていない。
連合が2日発表した春闘の中間集計(3月31日時点)によると、
組合員数が300人以上の大企業・中堅企業の労組は賃上げ率が
2.35%だったのに対し、中小は2.08%にとどまる。
連合が2日に東京都内で開いた緊急春闘集会では、
地方や中小企業の労組代表ら約200人から
「格差是正の観点では、改善はまだまだ」という声が相次いだ。
大手企業の経営トップは、安倍首相など政府の容人と直接、
意見を交わす機械もあり、賃上げ要請を重く受け止める雰囲気が
広がっている。大手には輸出企業が多く、円安を追い風とした
業績の好転で賃上げする余力も出ている。
中小企業に賃上げを波及させるには、政労使による一段の連携が求められていた。
2014年4月の消費増税後、家計の節約志向は続いている。
物価の上昇ペースに賃金の伸びが追いついていないためで、
物価変動を反映させた14年の実質賃金はマイナス2.5%となった。
総務省の家計調査で、1世帯(2人以上)あたりの消費支出は、
2月まで11ヶ月連続で前年割れだ。
15年も中小の賃上げが鈍いと、景気が失速する懸念も残る。
日本総合研究所の山田氏は「2年連続のベアで消費者マインドが
変わる可能性はあるが、直接的に消費を押し上げるにはまだ力不足」
と分析する。官民一体の新たな取り組みで、中小の賃上げが
加速することが期待される。